悪役令嬢リセルの恋
「いえ、いいんです。それより、そちらの男性に手伝ってほしいことがあるのですが」

 リセルは笑顔を作り、フードの男性に視線を送った。意地悪を企むようなそのニヤリ笑いに、さすがの団長もひるんでいるのがわかる。

「団長さまを含め、青狼の方々は収拾で忙しいでしょう? だから、少しの間だけ彼をお借りしたいんです。ダメでしょうか」

 団長は「はい。いえ、彼は……」と狼狽しているが、当の本人は平然とし、団長を制するような仕草をしている。 
 彼はリセルの前に立ち、先ほど団員たちがとったような敬意のある姿勢をとった。

「クロードと申します。俺でよければ、ご令嬢、なんなりとお申しつけください」

 声は低すぎず、舞台役者のような美声だ。
 フードの陰があるとはいえ、リセルを見つめてくる青い瞳のきれいさに、一瞬どきりとしてしまう。
 ──クロード……聞いたことがないわ。そもそもこんなにきれいな瞳の人、会ったことない……。
 しばらくぼんやりしてしまい、「ご令嬢?」と問いかけられ、リセルは慌てて老婆のほうを示した。

「私はリセルです。あそこで休んでいる老婦人を運んでほしいんです。彼女は脚と腰を痛めてしまって、困っていますの」
「承知しました。まずは診療所に行きましょう」

 クロードは微笑する。姿勢と気品は貴族そのものだけれど腰が低い。子爵が男爵くらいの家門かもしれない。
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