悪役令嬢リセルの恋
「ええ、そうですね。大変よくわかります」

 クロードはにこっと笑う。リセルの意図をほんとうに理解しているのか。ニコニコしすぎているから、本心がわからない。内心は嘲っているかもしれない。
 現代的な思考だから、普通の貴族はリセルを支持しないだろうから。

「もうここでいいですわ。あなたを団長さまにお返ししないと、恨まれそうです」
「いえ、軟膏を買うのでしょう? そちらまでご一緒しますよ。護衛だとお思いください」

 老婆が教えてくれた薬局は市場に向かう道とは違う通りにあるのだ。これ以上迷惑をかけられない。
 はるか遠くから響いてくる馬車の音を聞きながら、リセルは微笑んだ。

「いえ、けっこうですわ」

 必要ないと断ると、クロードの顔がどんどん険しくなっていく。その青い瞳はリセルを見ているわけじゃなく、背後にあるもののようで……。
 なにがある? と疑問に思い、ハッとする。
 普段耳にするような馬車の車輪音ではない、すごくけたたましい音が近づいてくる。振り向いたリセルは、驚愕で顔をゆがめた。
 暴れるように走る馬の手綱を必死に掴む、御者の汗だくでゆがんだ表情。車輪に踏まれた石が飛び散って周りのものを傷つけ、荷馬車の荷物が上下に跳ねている。
 ──え……?

「危ない!」
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