悪役令嬢リセルの恋
 ぐいっと引き寄せられたリセルはぎゅぅっと目をつむった。なにも見えない中、クロードの腕のたくましさと、しっかりと体を包むぬくもりを感じている。
 すさまじい車輪音が通り過ぎていき、クロードの腕の力が緩んだ。ほっと息を吐く様子が伝わってくる。

「けがはありませんか?」
「あ……ありがとうございます。あなたのおかげで、大丈夫でした」

 心臓がドキドキして鳴りやまない。体が震えていないのは、彼が守ってくれたからだ。
 なかば呆然としながら離れたリセルは、クロードの手を見て青ざめた。

「大変! 血が!」
「ああ、このくらい平気ですよ。浅いですし」
「大丈夫じゃありません。じっとしててください」

 リセルはポケットにあったハンカチで傷口を縛り、ほかにもけががないか慎重に調べた。そうすればローブがあちこち破れていて、数か所に傷を発見する。
 自分を守ったせいでけがをしたなんて、申し訳なくて動揺してしまう。運が悪ければ、クロードは大けがをしたかもしれないのだ。

「どうしましょう……傷口に塗る軟膏を手に入れないと……」

 ここには血を洗い流す水もない。目を潤ませながらおろおろと言葉を紡ぐと、クロードはくすっと笑う。

「青狼一の乱暴者と呼ばれるアクセルを相手にしてもひるまないから、気丈な人だと思っていたんだが、こんなことで涙を見せるとは……」

 クックックと忍ぶように笑う。
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