悪役令嬢にならないか?
 リスティアはワイン色の装丁の本を一冊、両手でウォルグに差し出した。
「もう読んだのかい?」
「はい。とても面白くて。途中でやめることができずに、つい夜ふかしを」
 ふふっとウォルグが笑みを浮かべる。
「だから、君は珍しく居眠りをしていたわけだ」
 やはり眠っているところからすべてを見られていた。羞恥に染まる頬を隠すかのように、顔を逸らす。
「ごめんごめん、リスティア嬢、怒らないでくれ」
「怒ってはおりません。ただ、恥ずかしいのです。ですから、しばらく時間をもらえませんか?」
 恥ずかしすぎて顔が熱い。それを冷ます時間が欲しい。リスティアは右手を自身に向けて、ひらひらと振って風を送った。
「ふぅ。大丈夫です」
 リスティアはウォルグに身体を向ける。
「ウォルグ様にお聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「なんなりと、どうぞ」
「悪役令嬢については、ウォルグ様からお借りした本を読みまして、なんとなくわかりました。ですが、わたくしが悪役令嬢になるというのは、どのようなことなのでしょう?」
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