悪役令嬢にならないか?
ダンスレッスンへの誘い
 リスティアは、地下書庫でウォルグと共にステップを踏んでいた。
 ――次は、やはり機敏な動きを身につけるべきだな。手軽なところからダンスレッスンとかはどうだろうか?
 そう誘われてから、一か月も経っている。そして、地下書庫でウォルグと顔を合わせるたびに、手を取り合い、身体を寄せ合ってダンスの練習に励んでいた。
 取り巻きという名の親しい友人を作ったリスティアが次に求められたのは、やはり機敏な動きであった。犯人とバレないようにヒロインを階段から突き落としたり、教科書を盗んだりするには機敏な動きが必要だ、というのがウォルグの言い分である。
 地下書庫に訪れる人はほとんどいないとしても、けしてダンスができる広い場所とも言えない。書庫の一番奥の少し開けた場所で、二人で寄り添って基礎的なステップを踏むしかできないような空間。くるくる回ったり、飛び跳ねたりしたら、書棚にすぐにぶつかってしまう。
 だからいつも、二人で寄り添って練習をしている。
「リスティア嬢、うまくなったね」
 顔を寄せ、耳元で囁かれてしまえば、頬に熱が溜まる。
 リスティアも一通りのダンスはできるが、それはお世辞にも優雅とはいえないものだった。とにかく、ダンスができるという、その程度のものである。
 だが『悪役令嬢』として機敏な動きをするためには、ダンスの軽やかな動きが基礎にあるとウォルグは言い、二人でこっそりとこの場で練習を始めた。
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