悪役令嬢にならないか?
 ほんの些細なことから興味は生まれる。興味を持ったら、またさらなる興味が湧く。彼女がウォルグの心を支配するまでそう時間はかからなかった。
 誰にでも分け隔てなく声をかけ、けしておごり高ぶることなどない。それが彼女の魅力でもあった。
 そうやって彼女を目で追っていくだけの関係で半年が過ぎた。気になる人物がいたら、老若男女問わず声をかけていた社交的なウォルグにとっては、青天の霹靂とも言われる事態である。それをたまたまエリーサに気づかれてしまったから、またまた厄介でもあった。
 エリーサは、リスティアと仲がよいわけでも悪いわけでもない。必要最小限の付き合いをしている、お互いの関係をわきまえた仲なのだ。
 リスティアは毎日のように付属図書館の地下書庫に通っていた。学術書の多い地下書庫の何が面白いのかがわからないと口にする生徒が多い中、彼女は熱心に歴史学の本を読んでいた。
 彼女がいなければウォルグも地下書庫に足を運ぶ機会はなかっただろう。なんとなく眺めていた書棚から、薬草学の専門書を見つけた。そういえば、薬草学の知識をつけて、人々のためになるような薬を開発したいと思っていた時期があったことを思い出す。
 とにかく、リスティアに興味を持ってからは、空いた心の穴が次第に埋まっていく。
 リスティアは見ていて面白い。特に本を読んでいるときの彼女の表情はくるくるとよく変わる。本を読みながら転寝を始めることもある。ピクっと身体を震わせる姿は、母親に抱かれて眠っている子猫のようにも見える。誰もいないと思って、油断している姿も愛らしい。
 ここには普段とは違う彼女がいた。
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