悪役令嬢にならないか?
 国王がまだ王太子であったとき、王太子妃候補は母親の現王妃を含む三人がいた。当時、王太子妃の最有力候補は、母親ではなかったらしい。想いは通じ合っていたが、気持ちだけではどうにもならない問題があったのだ。
 だが最有力候補の令嬢は、学園では他の令嬢たちを使用人のように扱っていた。それは当時の諜報員が入手した情報だった。卒業パーティーですべてを明かされた彼女は、諜報員に向かって『あなたって、物語に出てくる悪役令嬢のようね』と捨て台詞を吐いたところから、隠語で諜報員のことを『悪役令嬢』と呼ぶようになったという噂もある。
 そのいきさつをリスティアに教えたところ、彼女は文字通り目を丸くしていた。
「てっきり、この物語の悪役令嬢を求められるのかと思っておりましたわ」
 目を細めて首を傾げる様子は、ウォルグの心をざわつかせる。
「だが、諜報員と言ってしまうと、君も緊張するだろう? であれば、この物語のような悪役令嬢を目指せばいいのではないか?」
 ウォルグはリスティアに二冊の本を手渡していた。一冊は、悪役令嬢が活躍する物語。もう一冊は、『悪役令嬢(諜報員)』について書かれている報告書。
 物語に出てくる悪役令嬢は、とにかく頭の回転が早い。そして、それとなく運動神経もいい。リスティアは学習面においては優れているが、運動神経がいいとはけして言えなかった。そのため、ウォルグはダンスレッスンと称して、彼女の身体能力を高める訓練を始めた。
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