あの日ふたりは夢を描いた
「中、見ました……よね?」

「人の大切なノートを勝手に開いたりしないさ」

大噓をついてごめん。だけどきみは嘘だってわかっていたでしょ。

人付き合いや人前で話すことが得意ではなかったきみは、かわりに文字を書くことを好んでいるようだった。

咄嗟に言葉が出てこないかわりに、ゆっくり考えて心の中で整理してから文字にする。

とても言葉を大切にしている印象を受けた。

毎日の不安な思いが、作家が書いたように綺麗な言葉で、きちんとした文字で並べられていた。
まるで悲しい詩を読んでいるみたいに。

そんなに悩むことはないのに。きみはきみの魅力にまだ気づいていないだけだ。

僕がきみを笑顔にする。幸せにする。

これがアイドルとしてできる最後のことになるかもしれないから。

そのノートを読んで、僕は心にそう誓っていた。
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