あの日ふたりは夢を描いた
……でも全部過ぎ去ったこと。

「……あなたはあの場所にいたんだね」

「そうさ。あの日からずっと……」

彼の言葉を聞いている余裕なんてなくなっていた。

次々に思い出される過去の記憶で頭がいっぱいいっぱいだ。

「がっかりさせてごめんね。私はもう、あなたが想像するような人じゃない」

彼は昔の私を知って近づいた。

……結局、誰も今の私なんか見てない。

「今は書いてないの?」

「書かなくなったんだ。小説は自分の生き方や考え方が少なからず作品に影響する。こんな惨めな私が書いていていいと思えない」

「そんなの関係ないさ。書きたかったら書けばいい」

「書きたくない。

……あのときの私は、もういないから」

今は彼の顔を見たくもなかったし、もう聞きたくないと大げさに耳をふさいでしまいたかった。

「僕はきみにまた夢を追ってほしい」

追い打ちをかけるようにそんなことを言われ、押し殺していた感情は抑えが効かなくなった。
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