闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
 けれどキスされなかったから、死にそうな顔はしていなかったのだろう、たぶん。
 
 はぁ、と溜め息をつきながら小手毬はベッドサイドの白磁の花瓶を見つめる。
 優璃が持ってきてくれたバラは既に散ってしまった。清掃係が丁寧に集めて片付けてくれたから、今朝は珍しく病室に花がない。
 彼女はいつまで小手毬に花を送りつづけるのだろう。贈る、というよりも送る、という表現のほうがしっくりくるような、義務的なお見舞いの品。もういらないと、小手毬が一言口にすればいいだけの話なのだろう。その言葉が彼女の呪縛を断ち切るのは、理解できる。けれど。
 
 
 ――オソザキがいなくなったら、ハヤザキもいなくなる。
 
 
 なぜか、そんな気がした。
 記憶が曖昧な頃から傍にいてくれたふたりのことは、記憶が思い出せてきてからも忘れていない。
 子どものように無邪気にまとわりついて、ふたりを困らせていた自分のこと。
 たぶん優璃が羨ましかったのだ。小手毬の未来を壊したくせに、早咲の隣にいられる彼女が。
 
 
 ――ハヤザキは、あたしを恋愛対象とは見ていない。だって、オソザキがすきだから。
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