闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
 小手毬は大人びた表情を浮かべて苦笑する。
 記憶を飛ばした自分は、早咲のことを初恋のおじさまと混同させていたのかもしれない。「ハヤザキだいすき」なんて口で言うだけで満足してしまう子どもの戯言。
 そう、子どものときの小手毬はたしかに“雪之丞のおじさま”に焦がれていた。かっこよくてなんでもできてお金持ちで……
 まさか自分のほんとうの父親だなんて、思ってもいなかった。


「亜桜さん、失礼しますよ~」
「あ、おはようございます」
「検温と血圧、お願いします~」


 ノックの音とともに扉が開く。
 ベッドから身体を起こしたまま、ぼうっとしていた小手毬の前に、看護師の楢篠が入ってくる。
 彼は小手毬が目覚めてから傍にいてくれる看護師のうちのひとりで、唯一の男性だ。
 基本的に女性看護師がパジャマの着替えや入浴の補助を行ってくれるが、リハビリなどで車椅子の乗り降りを繰り返したりする場合は力持ちの男性看護師がひとりいるだけでずいぶん楽になるのだそうだ。楢篠健太郎も日中病棟のナースセンターに常駐しており、あちこちの入院棟を行き来している一人で、自由の先輩にあたる産婦人科医、赤根天の夫でもある。
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