闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
 黙々と朝食を食べる小手毬を楢篠が見つめている。ほかの看護師たちは食べるところを確認したらすぐに病室から出て行ってしまうというのに、彼だけは自分が食事を運ぶ係になると患者が食べ終わるまで見守っているのだ。
 はじめのうちは戸惑った小手毬だったが、何も言わずに優しく見つめるだけの彼が空っぽになったお皿を見て満面の笑みを浮かべるので、思わず笑ってしまった。「笑うとかわいいね」、なんてさらりと気障なことまで言って。
 だからそれ以来、楢篠が食事を運んできてくれたら、頑張って食べるようにしている。
 けれど。
 
 
「珍しいね、食が進まないのかな」
「あ、えっと、その……」
「事情は陸奥先生から聞いてるよ。戻ってきているんでしょ? 記憶。だとしたら、仕方ないよ」 


 こくりと頷きスープに口をつける小手毬に、楢篠が苦笑しながら告げる。
 
 
「諸見里先生には相談したの?」
「ううん……ジュウおにいちゃんには、まだ」


 たぶん、小手毬の記憶が戻ってきていることには気づいているはずだ。
 そして小手毬が自分を避けているという事実にも。
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