闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
「怒るようなこと、ではないかな」
「じゃ、じゃあやっぱり教えてください!」
「朝食ぜんぶ食べ終わったら教えてあげる」
「む」


 楢篠に言われ、小手毬は何も言わずに手にしていたヨーグルトの皿を口元へ近づけ、かきこむように残りをスプーンで口のなかへ流し込んでいく。その様子をおそるおそる見つめていた楢篠は、こみ上げてくる笑いが抑えきれなくなり、噴き出してしまう。


「そ、そんなに慌てなくても!」
「だ、だって気になるんです。ほら、ぜんぶ食べました! 教えてください!」
「わかったわかった。だからまずは落ち着いて。お茶ひとくち飲んで」
「……はあい」


 食べ終えた食器を乗せたトレイをワゴンに移しながら、楢篠は小手毬がお茶を飲み終える姿を確認する。
 そして去り際にヒトコト。
 
 
「オソザキさん、結婚するんだって」


 パタン、と扉が閉まり、残された小手毬は唖然とする。
「……けっこん?」 


 ――オソザキが、誰と? ハヤザキと?
 楢篠の話を思い出せば、そうとしか考えられない。
 けれど、どうして?
 
 
「どうして……?」


 楢篠が教えてくれたことはたしかに怒るようなことではなかった。
 けれど、飲み込めなかった魚の骨のように、小手毬の心の片隅をチクリと刺激した。
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