闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
「コデマリの記憶が戻ってきているんでしょう? だったら早いうちに教えてあげた方がいいわよ」
「だが」
「陸奥先生が真綿で包んだまま退院するその日まで大切にしてあげたいってのは見ていてわかるけど、彼女は生命を救ってくれた早咲先生に」
「言うな」
「もう、つれないねえ。桜庭財閥のきな臭い動き、加藤木ちゃんがあちこちでリークしてるけどいいの?」
「何?」


 リハビリのとき以外、加藤木とは顔を合わせないが、彼女は陸奥以外にも桜庭財閥についての情報をあちこちで撒いているらしい。桜庭雪之丞の隠し子である亜桜小手毬という餌を利用して何かを企んでいるのだろうか。否。彼女は小手毬を利用するような人間ではない。別の目的があるはずだ。
 陸奥はバカらしいと一蹴し、天を睨みつけるが、彼女は平然としている。


「信じたくないなら構わないけど、あなたひとりでコデマリを護ることはもはや不可能なところまで来ているわ」

 クスクス笑いながら彼女は陸奥にとどめを刺す。
 
 
「だって記憶の戻った彼女は――り……」


 彼女の呟きと重なるように、けたたましいナースコールの音が響く。
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