闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
   * * *


 ベッドの上に小手毬は倒れていた。
 白磁の壺を叩き割ったのだろう、そしてその破片で手首の頸動脈を傷つけ、大量の血を流している。
 気が遠くなる前に正気に戻ったのか、ナースコールのボタンをきつく握ったまま、彼女は気を失っていた。
 陸奥は血で汚れたベッドから彼女を抱き上げ、応急処置を行った後、駆けつけてきた看護師に部屋を変えるよう告げる。


 ――出血の量は多いが生命に関わるほどではないな。いったい何があった……?


 衝動的に自殺を試みたとでもいうのだろうか。
 困惑する陸奥は小手毬を用意された部屋へ運び、ベッドに寝かせる。
 むせかえるような血の香りは遠ざかり、陸奥はふぅと息をつく。
 やがてひくひく、と瞼が動き、左右でおおきさの異なる黒曜石のような瞳が陸奥を発見する。


「あ。ミチノク……」
「なにやってんだ」
「んと、生きるための、自傷?」
「……それはまた、派手にやらかしたな」
「ごめんなさい」
「いや。楢篠が余計な事吹き込んだからだろ……そんなにショックだったか?」


 早咲と優璃の結婚について問えば、小手毬はうーん、と考えながら首を横に振る。
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