闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
 たしかにふたりの結婚を知って驚いた、けれどそれが小手毬の自傷の直接の原因になるわけではない。
 しょんぼりしている小手毬に、陸奥は優しく声をかける。
 
 
「記憶が戻ったことで、感情がごちゃ混ぜになっているんだろうな」
「……たぶん、そう」


 桜庭雪之丞の隠し子として亜桜家で育てられたワケアリのお嬢様。
 彼女のバックグラウンドについて陸奥は何も知らない。
 けれど、目の前にいる彼女が痛みに苦しむ姿を見るのはなぜだか自分の身を削られるような痛みを伴う。
 たかが自分の担当患者、それだけなのに。
 自分が何者なのか周りから押し付けられてそこから逃げ出そうと死ぬことすら省みずあがく彼女を前に、陸奥は戸惑いを隠せない。


 ――彼女が抱える闇は、どこまで深い?


 小さいころからずっと自由が彼女を見守っていたのではなかったのか?
 なぜ記憶が戻った彼女は自由から離れようとしているのか?
 雪之丞の娘であるがゆえの、“器”になると口にした彼女。
 亜桜家の担保という、早咲の言葉の意味。
 そして事故に遭う前の小手毬を知る楢篠天が放ったヒトコト。

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