闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
『だって記憶の戻った彼女は死にたがり』


 抵抗しない小手毬をいいことに、陸奥は彼女のふわふわの髪をそっと撫でる。
 いつも自由が彼女に触れていた、柔らかくて艶のあるみどりの黒髪。
 おとなしく陸奥に撫でられていた小手毬は、血に染まった包帯を見つめながら、ぽつりと零す。


「ミチノク……恋の痛みをなくすお薬って、ない?」
「ないだろ、流石に」
「そっか……そう、だよね」


 麻酔科医のミチノクなら持っているかと思った。
 そう淋しそうに口にした小手毬を見て、陸奥は嗤う。


「早咲先生に恋してたのか? あんな中年オヤジ、やめとけ」
「ちがうよ……憧れはあったけど……恋になる前に終わっちゃった。それに中年オヤジなんて失礼だよ、ミチノクだってオジサンなのに」
「言ったな」


 くしゃりと小手毬の髪を指先で掬いながら、陸奥は頬を膨らませる。
 恋になる前に終わったと言いながら、失恋の痛みを抱える小手毬に矛盾を感じながら、陸奥は問う。


「お前にはジユウがいるだろ」


 自由の名を出せば、小手毬は笑って頷いてくれると思った。
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