闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
「あたしがあたしじゃなくなっちゃうの。こわい……から、傍にいて」


 錯乱してふたたび自傷行為をするとも限らないと、どこか脅しにも似た彼女のお願いに、陸奥はやれやれと息をつく。


「そんな死にそうな顔してそういうこと言うなら、また塞ぐぞ?」
「……ミチノクなら、いいよ」
「莫迦なこと言うな。もうしない」


 あれは魔が差しただけだと嘯く陸奥に、小手毬はふふっとかなしそうに微笑う。
 傷だらけの彼女をこれ以上惑わせるわけにはいかない。あのときの口づけは、単なる救命処置。それ以上の答えを求めるのは酷だ。けれど……


「わかった。傍にいる。だから、いまは眠ってろ」


 陸奥はそれだけ言って、小手毬の髪を右手で優しく撫でつづける。
 小手毬はぎゅっと陸奥の左手を握りしめ、その体温に安心したようにすぅっと眠りにつく。


 指先を絡ませたまま眠りについた少女を見下ろし、陸奥は溜め息をつく。
 恋の痛みをなくす薬があるのなら、自分の方が処方したいと、心のなかで毒づきながら。
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