闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
 ピンクの白衣を着た天が茶化すように自由に声をかける。囚われのお姫様、という単語に自由の顔がひきつる。

「小手毬は治療のために転院したんです」
「そうよ。表向きはね」

 茜里病院の跡継ぎとの婚約を破棄して看護師の楢篠と電撃結婚した天のことを、自由は笑えない。当時のふたりを知っているから、自由も抗いたくなったのだ。小手毬とともに生きる未来を手に入れようと。
 けれど、天は亜桜家の娘である小手毬との恋を応援するというより、傍観しているきらいがある。小手毬が天に嫉妬する姿は何度も見ていたし、それが楽しくて戯れに恋人同士の真似をしたこともあったけれど。天はどこか自由に一線を引いている。
 たぶん、赤根家と諸見里本家の確執が横たわっているからだろう。自由には関係のないことでも、彼女は律儀に線引きをする。

「表向き?」
「亜桜家はコデマリを赤根雨龍の“器”にしようとしてる」

 それだけでわかるでしょう? と天が嗤う。
 自由の目の前が真っ暗になる。

「このままここで研修医として経験を積んだとして、行き着く先は凡庸な医者。私はあえてその道を選んだけどね」
「……それは、ほんとうですか」
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