闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
 自由はバカらしいと自嘲する。彼女のために親が敷いたレールを逃れ、ここまで来た。けれどその先に彼女はいない。
 路線変更するなら今しかないと天はわざわざ警告してきた。まるで忌避すべき事態を自分に起こさせようとするかのように。それが彼女なりの復讐なのだと腑に落ちた。
 彼女の目的は自由を、諸見里の家を破滅させること。それ以上でもそれ以外でもない。小手毬は道具でしかない。
 自由はははは、と掠れた声で笑う。

 小手毬を諦めれば、これ以上泥濘でもがくようなこともなくなるだろう。
 けれど、父親の跡を継ぐことを拒んだ自由が今になって簡単に実家に戻れるものだろうか。

 赤根の一族である「冬」の桜庭雪之丞
 桜庭雪之丞と諸見里雛菊は“禁忌”を犯している。それだから蘭子は小手毬を嫌悪しているのだ。彼らは異父姉弟。雪之丞は桜庭家の妾の息子、そして雛菊は亜桜家の前妻の娘。同じ血を持つ母の胎から生まれたふたりは近くて遠い場所にいた。それなのに、惹かれ合ってしまったから、小手毬が産まれたのだ、と。

 自由ははじめ、他人事だと思っていた。
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