闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う

   * * *


 季節は八月の終わりを迎えようとしている。小手毬は十九歳になっていた。
 小手毬が茜里第二病院へ転院してから、すでに三ヶ月。転院してすぐは異なる環境に馴れることができず、病室で寝てばかりいた小手毬だったが、真夏の暑さが和らいできた最近は病室で瀬尾や雨龍と過ごすだけでなく加藤木とともにリハビリと称して車椅子から降りて病棟内を散策したり、病院の周辺の裏庭を散歩したりと、少しずつだが身体を動かしはじめている。

「あ、赤とんぼ」
「山の方だからもう飛んでいるのだね。アキアカネかな」
「アキ、アカネ」

 赤根一族の「秋」によって設えられたこの病院は、小手毬を閉じ込めるための虫籠のようだと、加藤木は苦笑する。外界との接触を絶たれた彼女は、この異質な状況をおかしいと訴えることもせず、いまも無邪気にとんぼを目で追いかけている。
 転院初日に身体検査を行って以来、陸奥は茜里第一病院へ出向を命じられ、第二に顔を出すのは十日に一度ほどになっていた。
 その代わり。
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