闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
 この地域特有の信仰として、“諸神”の存在はいまも密かに語り継がれていた。それを商売道具へ変換させたのが桜庭雪之丞と、彼に金で服従した亜桜の一族だ。もともと神社を管理していた亜桜の人間は“巫”としての素質があったため、氏神をその身に降ろすことができたという。いつしかそれが、一族の女のみにしか受け継がれなくなり、その特別な女性を“女神”と呼ぶようになった。だが、“女神”は選ばれた男の精を受ける“器”としての役割が課されている。小手毬はその男と娶せられる運命を背負っている。
 赤根一族は雨龍にその役目を負わせようとしているのだと本人が言っていた。けれども雨龍にその気はないという。
 加藤木は誰が小手毬を狙っているのか、すべてを把握しきれていない。

「ジユウお兄ちゃんだったら、大丈夫だと、思ったんだけど……なぁ」

 小手毬はそれでもここにはいない彼を望んでいる。
 異父兄妹であるふたりが結ばれることなど、けして許されないにもかかわらず。
 今日も小手毬は諦観の念を込めて、彼の名前を、口にする。
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