闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
 地域医療センターにいた頃の彼しか知らなかったから、もしかしたらこちらがもともとの彼の本性なのかもしれない。
 猛毒の入った針をつまらなそうにケースに仕舞い、自由は朗らかに笑みを浮かべる。

「加藤木先生から連絡があったときには目を疑いましたよ。まさか彼女が俺の計画を見破るなんて」
「……彼女は別の意味で常識が破綻しているからな」

 宗教狂いの瀬尾や生まれつき洗脳された天、そして小手毬と自由と比べれば、加藤木はどこにでもいるような一般人である。
 それゆえ陸奥は彼女を好ましく思っていたが、今回の件で考えを改めざるを得ないと痛感した。
 突拍子のない行動力と他者を引き付ける吸引力。敵も味方も自分の手のひらのうえに転がして、その結果、思い通りにしてしまう。
 ここにいる自由が一途で危険な男なのは理解できるが、加藤木もまた危険な女だ。

「陸奥先生は彼女を止められなかった。だからここにいらっしゃるんですよね」
「救われないふたりを見守るだけの簡単な仕事は自分には合わないそうだ」

 はあとため息をつく陸奥に、自由は冷たい声で問う。
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