闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う

   * * *


 ――話を聞いた楢篠天は困惑していた。
 茜里第二病院の特別病棟で入院中だった亜桜小手毬は精神科医の瀬尾による医療行為の最中にショック症状に陥りそのまま帰らぬ人となり、責任を感じた瀬尾は毒針で自殺。“諸神信仰”が関わっていることもあり、騒ぎを公にしたくなかった天の父親は雨龍のいいなりとなって小手毬の遺体を亜桜家へ運び出させたのだという。
 ところが当の小手毬は全身麻酔による仮死状態で、外に出されて即座に酸素吸入器をはじめとした蘇生処置をされ、いまも意識はないものの容態は落ち着いていると加藤木は笑っていた。
 茜里第二病院に加藤木が残っているのは雨龍と現場の尻拭いをしているからで、本当なら陸奥と一緒に彼女の傍に侍りたかったと毒づいている。

「ナラシノ先生、あと三日早かったら、ジユウくんがあなたが雛菊……いえ、菊花経由で渡した鍵を手にこの病院へ侵入して、彼女を奪っていく姿を目にすることができたと思いますよ」
「……わたしが来たのは、遅かったのね」

 憑き物が落ちたような表情の天を前に、それでよかったんですよと加藤木は首を振る。
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