闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
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茜里病院から車で一時間ほどの場所に、その施設はあった。
かつて桜庭雪之丞が私財を投じて建造させたという石造りの養護福祉施設。俗にいう高級路線の高齢者施設、老人ホームである。
だが、そこで悠々自適に暮らしているのは老人ばかりではない。離れには若年向けのスペースがあり、会員制の保養所として開放されている。
「この施設も、桜庭雪之丞が残した“隠し遺産”なのか?」
「そうよ。名義は別のひとが持っているけれど、あたくしが管理一般を任されているの」
亜桜菊花と名乗った女性は、周囲をきょろきょろ見回す陸奥を興味深そうに観察している。交通事故で瀕死の状態だった小手毬を救った麻酔科医は、彼女が抱えていた闇を知り、この騒動に巻き込まれてしまった可哀想なひとだ。幸い、“諸神信仰”のために“女神”を利用し金を巻き上げる宗教団体に目をつけられることはなかったようだし、取引次第ではこちらの味方でいつづけてくれるだろう。息子と娘が想いあっている限り。