闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
  * * *


 振り返ると、陸奥がいた。
 自由は彼を見上げ、何事もなかったかのように小手毬に視線を戻す。
 ぴくりと、ちいさな手が動く。だが、それ以上の反応はない。


「……お前」


 ざぁっと、バケツをひっくり返したような雨が、窓を打ち付ける。
 何度も何度も、稲妻が光り、外を照らす。


「なんで、ここにいる」


 関係者以外、病棟内に人間はいないはずだ。それなのに、彼は平然とその場にいた。
 しわひとつない白衣を着て、佇んでいた。

 まるで、彼こそが亜桜小手毬の主治医であるかのように。


「ここに、いたいからです」

 理由にならない理由を口にして、自由は陸奥を混乱させる。困惑した表情で、陸奥は問い返す。

「何をしていた」
「何も」

 ふいと顔を背け、自由は怒ったような口調で言い返す。
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