闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
* * *
脳神経外科学会の植物状態の定義は六つある。思い返すように陸奥は声にする。
「自力移動が不可能である」
「たとえ声を出しても意味のある発語は不可能である」
「眼を開け、手を握れ、等の簡単な命令にはかろうじて応じることはあるが、それ以上の意思疎通は出来ない」
「眼でかろうじて物を追うことがあっても認識することは出来ない」
「自力摂食が不可能である」
「糞尿失禁状態である」
以上の状態が、治療ににもかかわらず三ヶ月以上続いた場合、植物状態とみなされる。
「……自律神経は正常に機能しているのに体性神経は欠如した状態なんだ。それが全体的なものかそうでないかはわからないが」
「おい、また動いたぞ」
陸奥は小手毬の様子を見て、首を傾げる。残暑の厳しい九月になってから、彼女の動きが顕著になった。僅かながらも動こうとしている手は、ちいさすぎてとても十八歳のものとは思えない。
「何があった?」
小刻みに動き出した手を見た早咲が、陸奥に尋ねる。
「……こっちが知りたい」
事故から一年と十ヶ月。