闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
 このまま呼吸が止まってもおかしくないと思われていた少女が、生きようとしている。
 それも、意識を失って二年近く経過しようとしている、絶望的なときに。

 まだ、手を動かす程度だが、やがて瞼を開き、再びひかりを見るようになるだろう。
 そして声をあげることも可能なはずだ。意識さえ回復すれば。
 今はまだ、植物状態に認定されてはいるが、状況次第では、根底から覆るかもしれない。

 陸奥のてのひらに、汗が滲む。
 今日も病室の飾り棚には優璃の持ってきた色とりどりの花が並ぶ。ラークスパーだろうか、ヴァーミリオン色の八重咲の花はまるで鳥の翼のように大きく開いている。

 小手毬に意識回復の兆しが見えたことで、現場は活気付いてきた。
 奇跡が起きようとしている。誰もが彼女の目覚めを待っている。
 担当医を引き継いだ陸奥は、慎重に彼女の動きを見守る。
 早咲も、手術に追われているものの、時間があれば陸奥のもとへ訪れるようになった。そして。


 ――その報告を、自由は産婦人科の研修中に聞く。
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