闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
   * * *


 秋の陽射しが優しく車椅子の小手毬を照らす。柔らかい橙色のひかりを、彼女は心地よさそうに浴びている。
 一年と十ヶ月、太陽のひかりを浴びずにいたのだ。さぞ気持ちのよいことだろう。
 機嫌が良くなったのか、少女は瞼をひくひくさせ、しばし、まどろむ。
 やがて。


「ねぇ」

 少女は車椅子を運転している強面の看護師に、おそるおそる、話し掛ける。

「なんだい?」

 男性看護師は「楢篠」というネームプレートを胸元につけている。ナラシノと呼んでくださいと小手毬に告げた彼を、彼女は「へんな名前」と一蹴した。でも、ミチノクの方がへんな名前かもしれないと自分の名前を余所に、小手毬は考える。

「ナラシノは、奇跡って、信じる?」

 どうしてこんなことを口にしたんだろう、小手毬は口にしてから顔をしかめる。
 おかしなことを言う子だって思われたかもしれない。いや、もう完全におかしい子だから仕方ない。
 植物状態から一年と十ヶ月して覚醒した。それをひとは奇跡と呼ぶ。だけど小手毬にはそれが奇跡と呼べない。理解できない。
 自分だけが置いていかれてしまったみたいで。
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