闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
   * * *


「自惚れるな」

 陸奥に一蹴され、小手毬は両頬を膨らます。
 奇跡なんかじゃないと口にした小手毬を、楢篠は困惑した表情で見ていたが、事情を聞いた陸奥は無表情のまま怒りを表す。

 ……ウヌボレルってどういうことだっけ。

 小手毬は自分がなぜ憤っていたのかを忘れ、きょとんとした表情に戻り、陸奥の顔をじぃっと見上げる。
 車椅子に座っているから、陸奥がいつも以上におおきな存在に見える。小手毬は、彼が自分を奇跡じゃないと言っていることに気づき、興味をなくしたように顔を背ける。
 彼女の視線がずれたのを陸奥は何も言わず、車椅子の運転を楢篠から代わる。
 楢篠は軽く会釈してナースセンターへ戻っていく。

 中庭からの連絡通路。そこから病室までを小手毬は陸奥と進む。運転する人間が代わることで、車椅子の乗り心地は左右される。楢篠が慎重なのに対して、陸奥の動かし方は粗雑だ。けれど不快感はない。それが悔しい。なぜ悔しいのか小手毬にはわからないけれど。


「聞いて飽き飽きする」

< 80 / 255 >

この作品をシェア

pagetop