闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
車椅子を押しながら、陸奥は毒づく。何が奇跡だ。奇跡と呼ばれることなんか何も起こってないというのに。奇跡と周囲が騒がすから、当事者である小手毬までもが奇跡というありえない現象に囚われてしまう。
陸奥は反芻する。
奇跡と呼べる現象について。小手毬に気づかれぬようこっそりと。
奇跡は最初の一度だけ。
彼女が自ら動き出したあの一瞬だけ。現在進行形で起こっているわけではない。
だから、今の彼女の状態は、適切な治療によって生じた転帰でしかない。
そう結論付けて、陸奥は小手毬の顔を見下ろす。
小手毬は不機嫌そうに唇を尖らせた陸奥を無視して、視線を白い病棟内へ彷徨わせている。また虫でも見つけたのかもしれない。
しばらく無言のまま、ふたりは廊下を渡りきり、エレベータホールの前で止まる。
「ミチノク」
「なんだ」
むっつりした表情のまま、小手毬が尋ねる。
「ウヌボレルって何?」
「自分で思っている以上に自分のことを過信していることだ」
「よけいわからない」
「要するにお前が生きてるのは奇跡じゃないってことだ」
「でもみんなは奇跡って言ってた」
「お前はそうは思わないだろ」
陸奥は反芻する。
奇跡と呼べる現象について。小手毬に気づかれぬようこっそりと。
奇跡は最初の一度だけ。
彼女が自ら動き出したあの一瞬だけ。現在進行形で起こっているわけではない。
だから、今の彼女の状態は、適切な治療によって生じた転帰でしかない。
そう結論付けて、陸奥は小手毬の顔を見下ろす。
小手毬は不機嫌そうに唇を尖らせた陸奥を無視して、視線を白い病棟内へ彷徨わせている。また虫でも見つけたのかもしれない。
しばらく無言のまま、ふたりは廊下を渡りきり、エレベータホールの前で止まる。
「ミチノク」
「なんだ」
むっつりした表情のまま、小手毬が尋ねる。
「ウヌボレルって何?」
「自分で思っている以上に自分のことを過信していることだ」
「よけいわからない」
「要するにお前が生きてるのは奇跡じゃないってことだ」
「でもみんなは奇跡って言ってた」
「お前はそうは思わないだろ」