闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
「うん」

 すんなり頷かれ、拍子抜けする。自分は奇跡を起こしたと喜んでいるかと思えば、そうでもないらしい。

「奇跡ってのはな」

 ふと、なぜこんなにもムキになっているのだろうと思ったが、言いかけた言葉を今更止めることなどできない。


「ありえないことが、起こるってことだ」


 ふんふんと、小手毬は彼の言葉を飲み込んでいる。さっきまで不貞腐れていたというのに、あっさり切り替えた彼女を見て陸奥は苦笑を浮かべる。


「あたしが生きてることは、ありえないこと?」
「そう見えるだけだ」


 だから周囲の人間は奇跡だと口にする。本人からすれば生命活動を行っているただそれだけのことなのに。
 小手毬はなるほど、とでも言いたそうに首を軽く振り、頷く。


「だから自惚れるなって言ったんだ」
「自分でそれを奇跡だと認めたらいけないってこと、か」


 そう言って、小手毬は微かに笑った。
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