闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
   * * *


「覚えてなくても仕方がないわよ」

 そう言いながら、病棟を早足で進む天。背中を追いかける自由。

「でも、あのこがコデマリだって、すぐわかったわ」

 病室で一目見て、あのときの少女だと、天は確信した。彼女は忘れているみたいだけど。
 腰まで伸ばしっぱなしだった黒髪は事故で痛んだからか、治療の際に切られてしまったが、今はもう胸元まで届いている。目覚めたことでふわふわのゆるやかなウェーブと誰もが触れたくなるような艶めいた髪質も蘇り、生き生きとしている。
 髪だけではない。青白い頬も血の気が通いだし、桜色に戻った。小学生の小手毬を知る天は、あのときのほっぺだと思った。
 唯一違うのは、瞳のおおきさ。それでも、好奇心旺盛で、なんでも知りたがるつぶらな瞳は健在のようだ。

「わかりますか?」

 ホッとした様子の自由に対し、軽く首を縦に振る天。

「もう、あれからそんなにたつのね」

 どこか弱々しい彼女の声を、自由は耳元で静かに受け止める。

「ええ。小手毬は十八歳になったんです……そうは見えなくても」
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