闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
 たとえ精神年齢が退化してしまったとしても。彼女の身体が十八年の歳月を重ねたのは紛れもない事実。

「そうね……」

 どこか寂しそうな天は、病棟を抜け、自分の聖域に入ると、仮面を被るかのように、ふだんの産婦人科医楢篠に戻る。軽く手を振って早く戻れよと微笑む彼女に、自由も手を振り、軽く頷く。
 どこか無理しているように見える彼女の後ろ姿が小さくなるのを、黙って見送る。

 かつてのことを知る人間はここにはいないというのに、なぜだか後ろめたい気持ちになってしまう。
 小手鞠が天と仲睦まじくしていた自由の前でムキになって誓った約束は、まだ有効なのだろうか?

 十年経ってもこの気持ちが変わらない? まだ約束の十年には届いていないけれど。
 自由お兄ちゃんのお嫁さんになる、と笑顔で告げた小学生の頃の小手鞠の姿を思い出し、苦笑する……


 ――あの頃から、彼女は特別なオンナノコになった。


 その後、交通事故で自由を庇ってはねられてしまったのを見て、彼女のいない世界を全力で否定する自分の姿を痛感した。
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