闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
 自分が意識を失っていた頃は、医大生だったから毎日のように見舞いに来てくれていたのだという。けれど小手毬には当然その記憶はない。
 理解できるのは、自由は今日はここにいないということだけ。
 いま、小手毬の病室にいるのはついさっきまでリハビリを手伝ってくれた早咲と、花束を渡してくれた見舞客のふたりだ。

「オソザキさん」
「なぁに? 小手毬ちゃん」

 看護師たちからオソザキと呼ばれる彼女は、今日も小手毬のために花を持ってきてくれた。
 聞いたところ、実家が花屋の卸売りを生業にしているから、毎回さまざまな花を準備できるそうだ。
 小手毬は差し出されたブーケの中でひときわ目立つ淡いオレンジ色のスプレーバラの花弁を撫でながら、ぽつりと呟く。
 
「オレンジ色のバラの花言葉って、無邪気、ですよね」
「健やか、って意味を込めて選んだんだけど……無邪気って言葉も小手毬ちゃんに似合うわね」
「子ども扱いしないでください」

 ぷう、と頬を膨らませて拗ねる小手毬に、優璃は苦笑を浮かべる。

「ごめんなさい、子ども扱いしているわけじゃないのよ。明るくて、キレイな花でしょう?」
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