人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています

 ヴァルクのごつごつした大きな手は、少し力を加えただけでイレーナの手をぐちゃぐちゃに破壊してしまうだろう。

「簡単に握り潰せる手だな」
「お、お許しください。どうか、私の手を壊さないで」
「冗談だ。そんなに怯えるな。猫のように可愛いな」

 はははっと笑うヴァルクに対し、静かな怒りを感じるイレーナ。

(だ、だめよ。相手は皇帝。それも私の手を簡単に握り潰せる男なのよ。落ち着いて。冷静に。大丈夫。落ち着こう)

 ふうーっと息を吐いて、真剣な表情を彼に向ける。
 と言っても、背後から抱きしめられているのでイレーナが顔を傾ける形になっている。
 そして、その視線の先にはヴァルクの顔。それも、かなり至近距離だ。

(ドキドキしすぎて心臓も壊れそうだわ)

 イレーナはなんとか呼吸を整えて、真面目な顔で訊く。

「先ほど私に質問があるとおっしゃられました。お答えいたします」

 冗談はやめて真剣に話をしましょう、という意味を込めて訴えたつもりだ。
 ヴァルクは口もとに笑みを浮かべて答える。

「ああ、そうだな。真面目な話をしよう」

 イレーナはほっと安堵する。
 これでしばらくは変なことはされないだろう。
 しかし、変わらずハグされた状態ではある。

(この状態でちゃんと答えられるかしら?)




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