偽る恋のはじめかた
———人事部の課長に着任して数週間が経つ頃
人事部の雰囲気が悪いような気がした。
チラッと一瞬視線があっても、罰が悪そうな顔をされて、すぐに視線を逸らされる。
これは、気のせいでなければ、対処しないと・・・・・・。
" 部署 雰囲気が悪い 改善 "
朝までネット検索をして調べたが答えは導き出せなかった。「はぁ」と毎日のように大きな溜息が漏れる。新しい環境と昇進した重圧感に思い迷い始めていた。
俺様上司を偽る日常にも心身ともに疲れてきて、胃がキリキリと痛み始めたころ、部署内である一人の社員が目につくようになった。
椎名 皐月。
彼女は雨宮さんと同期で仲が良いらしく、よく一緒にいるところを見かけた。
椎名さんの第一印象は、"気が強そう"だった。
俺が渾身の力で演じている俺様上司に歯向かってくるのは、椎名さんくらいだった。
華奢で俺よりもだいぶ身長の低い彼女は
見下ろされても屈せずに、下からキッと睨みつけてくる。
俺様上司を演じる上で、どこか躊躇してしまう心が拭えなかった。
俺に注意をされて、落ち込む社員を見ると
少しだけ心が痛くなるのだ。
なので、なにを言われても落ち込むどころか反抗してくる椎名さんに声を掛けることが増えていた。
俺様上司を偽り続けられたのは、椎名さんのおかげかもしれない。彼女がいなかったら、心が折れて挫折していたような気がする。