偽る恋のはじめかた
「椎名さんには最初から残念なところばっかり見せてしまった。……椎名さんの理想の男になら、なんでも偽るよ?……失いたくないから、どんな男にだって偽れる」
その声は弱々しくどこか悲しげで、反対に抱き締める腕の力は強くなった。
「……私は偽ってない桐生課長をそばで見てて好きになってるんだから、偽る必要なんてないです」
後ろから抱き締められていた腕を解いて、正面に向き直す。桐生課長の瞳をまっすぐ捉えて、私は偽りのない自分の言葉でしっかり伝えた。
「……本当に、俺で、いい、のかな?」
不安が拭えない桐生課長の瞳は揺れているように見えた。外気に触れて少し冷たくなった頬を、もにゅっと両手で包み、強制的に視線を合わせる。
「もうっ!残念なところも、意味不明なところも、全部含めて、そんなあなたが好きだって言ってんのっ!」
強い口調で告げると、一瞬目を見開いて、次の瞬間には、安心したように柔らかな笑みを浮かべた。
あなたがいい。
あなたじゃなきゃ、だめなの。