偽る恋のはじめかた
「はあ、全然響いてないじゃん。俺がさっきの台詞言うために、どれだけ緊張したのか分かってるんすか。緊張でドキドキしてた俺の心臓と時間返してください」
大きなため息を吐いて、ふいっとそっぽを向いて拗ねている。
・・・・・・かわっ。
ダメだ。ダメだ。
一瞬、可愛いと思いそうになったが、自分の中でその感情に蓋をする。
視線を桐生課長と梨花に戻すと、2人の距離が少し近くなった気がする。・・・・・・ムッ。モヤモヤが心を覆った。
(ん?なんだ?ムッて、なんでモヤモヤしてるんだろ?)
「おーい。椎名さん、俺の話聞いてます?」
「・・・・・・あっ、ごめん、ごめん」
桐生課長と梨花のことが気になって、黒須君の存在を一瞬忘れていた。私の視界に入るところに座っている桐生課長が悪いんだ。
視界に嬉しそうな表情がチラチラと入ってくるから気になってしまう。
自分の中に湧いてきたモヤモヤの感情の正体が分からずに、またモヤモヤが、広がっていく。
今日はやけに酒が進む。右手に持っていたビールをゴクリと一気に飲み干した。