世界くんの想うツボ〜年下ドS御曹司との甘い恋の攻防戦〜
「梅ちゃん……お母さんは梅ちゃんに平凡な幸せを掴んでほしいのよ。ありきたりでいいの。梅ちゃんを大切にしてくれて、生涯幸せにしてくれる人を選んで欲しいの」

(生涯幸せに……)

結婚というモノをかんがえたとき、正直世界との未来は、いまは全然思い浮かべることができない。勿論それは若く会社に入りたての世界も同じだろう。

「梅ちゃん、まだ三週間でしょう。引き返すなら今しか……ないとおもうのよ。お母さんからしたらいつまでたっても目が離せない大事な子供だけれど、世間から見ればもういい歳の大人だからね」

──大人ってなんだろう。

心に蓋をして世間一般の常識からはみ出さずに秩序を保って暮らすこと?
仕事ならわかる。

でも恋愛は?
大人になれば恋愛も世間の常識に合わせてはみ出さないように気を配って制限されなくてはいけないのだろうか。

弱い心はすぐに揺れる。ゆらゆら漂っているうちに一番大切なものは掌から(こぼ)れて海の底へと落ちていきそうだ。好きな想いだけを抱えて世界とただ一緒にいるには私は歳を重ねすぎていることなんて十分すぎるほどわかっていたことなのに。

「……梅ちゃん、《《もう》》三十五歳なのよ?世界くんは《《まだ》》……二十二歳でしょう?」

(もう?まだ?そんなこと……分かってる。分かってるけど)

桜子が湯呑みをもつ私の掌の上からそっと重ねた。その母の掌のあたたかさこそ変わらないが、指先の節は太く目立ち、手の甲の皺も随分増えている。

いつも間に、母の掌はこんなに年を取ったんだろう。
その年月だけ私自身も年を重ねた現実がチクリと胸を刺す。

「……梅ちゃんがそんな顔するなんて……お母さんも、こんなこと言うのは辛いけど……実はね……今日梅ちゃんを訪ねたのは、これを渡したくて」

桜子は大きな書道道具が入った袋から封筒を取り出した。

「お母さん、これ……」

封筒から中身を取り出すと開かなくてもそれが何かは分かった。

「知り合いの書道家の息子さんで公務員って言ってたわ。確か教師をしてるとか。梅ちゃん……そろそろお母さんのことも安心させるつもりで、一度お会いしてみてくれないかしら?」

そっと釣書を開いてみれば、生真面目そうなメガネをかけた男性が写っている。落ち着いていて穏やかそうで明らかに世界よりも大人の雰囲気の男性だ。
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