世界くんの想うツボ〜年下ドS御曹司との甘い恋の攻防戦〜
俺は今度はため息の代わりに、明菜が先ほど自分のを淹れるついでだからと持ってきてくれたコーヒーに口づけた。

梅子はふと難しい顔をすると俺の方を気にしながら、一番大きな引き出しから図面を取り出した。俺はさっとそっぽをむく。

(あれか?……ボスからの見積依頼って?)

「梅子さん、やっぱちょっと休憩したらどうです?あったかいのいれてくるんで」

俺は再度梅子に近寄り梅子の湯のみに手を伸ばすフリをしながら、梅子の肩越しに図面をのぞき込む。

(ん?……市開発……商業……梅子さんの手邪魔……もうちょういで見えんのにな……)

俺の気配に気づいた梅子が商品カタログでさっと図面を隠すと俺の肩を掌で押した。

「そんな近づかなくても聞こえるし……いらないって言ったでしょ!もうっ、これは絶対見せられないからっ」

「バレた?現場名おしえて?」

「ダメだって」

梅子が俺の椅子をツンと蹴った。

(仕方ないな、カマかけてみるか……)

「いいじゃん、俺も花田不動産との都市開発のヤツ、見積りしてみたい」

梅子の頬が一瞬引きつった。

「ち、違うからっ、やっぱり……早く緑茶いれてきてよっ」

(ぷっ。ほんと梅子さんって隠し事下手すぎ……そんなとこもツボっすけどね)

俺はこれ以上梅子に困らないように黙って梅子の湯飲みを抱えて立ち上がった。


給湯室目指して歩きながら、俺は掌の中の湯呑みを何気なく眺めた。梅子の湯呑みは藍色の釉薬を使っていてかなり使い込まれている。

(ん?……てかこれ男性用の湯呑みじゃん。そんなにたっぷり緑茶飲みたいかよ……)

ふと裏返せば『将勝(まさかつ)』の文字が見えた。

「将勝?まさかつ?梅子さんのお父さん?……って今はそれどころじゃねぇっ」

すぐに俺は、さっきの見積のことを頭に思い浮かべる。

梅子は由紀子直々に大きな現場見積を任されたと言っていたが、さっきの梅子の反応からいくとまず花田不動産とTONTON(うち)とがてがける都市開発の見積りで間違いなさそうだ。

ただ不思議なのは、なぜそのことを俺に隠す必要があるのかということ。一般社員ならまだしも俺は仮にもTONTON株式会社の社長を務める由紀子の甥だ。いくら大きな案件だからと言って現場名称くらい話しても何ら問題はないはずだ。
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