世界くんの想うツボ〜年下ドS御曹司との甘い恋の攻防戦〜
「僕から見たら入社式で会った時から変わってない。見た目も中身も」
「また嘘ばっかりっ」
「僕は梅子にだけは嘘つかないようにしてるけどね」
「あっそ、それはどうも」
可愛くない言い方で誤魔化したが、私はこの殿村という男が未だにわからない。いつも涼しい顔をしていて冷静で、あまり喜怒哀楽を表にださないくせに、同期の私だからかなのか、時折返答に困る言い方をすることがある。
「怒った?僕は褒めてるんだけどね」
「素直に受け取っとくわよ、ありがと」
私の返事に満足そうに頷くと殿村は私に背をむけて直ぐに振り向いた。
「梅子、新入社員研修十一時からだよね?」
「えぇ、それがどうかした?」
「いや、梅子の前の講義が僕ってだけ」
「わざわざ殿村自ら講義しなくても課長あたりにまかせればいいのに、完璧主義ね、お殿さまは」
殿村がクククッと笑う。
「梅子までその呼び方するんだ?僕も呼ぼうか?梅将軍」
「もうやめてよっ」
「はいはい。ていうか今更梅子以外に呼び方かえれないや。じゃあ見積宜しくな、梅子」
殿村はひらひらと手を振りながら私に背を向けると見積課の扉を閉めた。
(梅子ね……)
私と殿村はこのTONTON株式会社で唯一の同期入社だ。入社時は就職氷河期といわれていた時代で会社も腰かけ入社を狙って、その年の新入社員は女子社員の入社がほとんどだった。そして会社の目論見通り、私以外の同期だった女子社員たちは、はるか昔に寿退社している。仲の良かった年の近い後輩達も全滅だ。いまや私のことを呼び捨てで、しかも下の名前で呼ぶのは殿村だけになってしまった。
私だけが変わらない。変えられない。
「はぁ、変わらないっていい事なのかな……」
いまやTONTON株式会社の底辺を支える縁の下の力持ち部門である見積課の初めての女課長となって五年。周りの後輩社員たちは皆、私を尊敬の意味と敬意をこめてらしいが、いつの間にか私ことを『梅将軍』と呼ぶようになった。先ほどの明菜に言われた言葉を思い出す。
(見積の山に先陣をきって、ね……)
確かに仕事には誇りをもっているし、仕事においては一切妥協はしたくない。常に全力で誠心誠意取り組みたい。
(入社して十二年か……)
思わず誰にも聞かれないため息が転がった。総合職で男に交じって仕事をして会社に貢献している自分は決して嫌いじゃない。でも……。
──本当は私だって結婚したい。
一度でいい。とびきり甘いドラマみたいな恋愛を経験してみたい。そんなことを考えるのはアラフォー女にとっては馬鹿げた妄想なのだろう。現実は甘くないし、どちらかと言えば苦い事ばっかりだ。それでもこのまま仕事に生きて一生を終えると決めるのもまだ早い気がして、どこかで勝手に目に見えない恋に向かって手を伸ばしそうになる。手を伸ばさなければ恋なんて普通に仕事をしていても、降っても来なければ沸いても来ないのだから。
「あぁ……何考えてんのよ!駄目っ、煩悩を捨て去るのよ!梅子!」
私は湯のみに手をかけると緑茶を一気に飲み干した。
(私には暴れすぎ将軍様が待っているんだからっ)
一瞬頭に浮かんだレンアイの二文字を緑茶と共に飲み込むと、私は殿村がおいていった図面を早速広げた。
「また嘘ばっかりっ」
「僕は梅子にだけは嘘つかないようにしてるけどね」
「あっそ、それはどうも」
可愛くない言い方で誤魔化したが、私はこの殿村という男が未だにわからない。いつも涼しい顔をしていて冷静で、あまり喜怒哀楽を表にださないくせに、同期の私だからかなのか、時折返答に困る言い方をすることがある。
「怒った?僕は褒めてるんだけどね」
「素直に受け取っとくわよ、ありがと」
私の返事に満足そうに頷くと殿村は私に背をむけて直ぐに振り向いた。
「梅子、新入社員研修十一時からだよね?」
「えぇ、それがどうかした?」
「いや、梅子の前の講義が僕ってだけ」
「わざわざ殿村自ら講義しなくても課長あたりにまかせればいいのに、完璧主義ね、お殿さまは」
殿村がクククッと笑う。
「梅子までその呼び方するんだ?僕も呼ぼうか?梅将軍」
「もうやめてよっ」
「はいはい。ていうか今更梅子以外に呼び方かえれないや。じゃあ見積宜しくな、梅子」
殿村はひらひらと手を振りながら私に背を向けると見積課の扉を閉めた。
(梅子ね……)
私と殿村はこのTONTON株式会社で唯一の同期入社だ。入社時は就職氷河期といわれていた時代で会社も腰かけ入社を狙って、その年の新入社員は女子社員の入社がほとんどだった。そして会社の目論見通り、私以外の同期だった女子社員たちは、はるか昔に寿退社している。仲の良かった年の近い後輩達も全滅だ。いまや私のことを呼び捨てで、しかも下の名前で呼ぶのは殿村だけになってしまった。
私だけが変わらない。変えられない。
「はぁ、変わらないっていい事なのかな……」
いまやTONTON株式会社の底辺を支える縁の下の力持ち部門である見積課の初めての女課長となって五年。周りの後輩社員たちは皆、私を尊敬の意味と敬意をこめてらしいが、いつの間にか私ことを『梅将軍』と呼ぶようになった。先ほどの明菜に言われた言葉を思い出す。
(見積の山に先陣をきって、ね……)
確かに仕事には誇りをもっているし、仕事においては一切妥協はしたくない。常に全力で誠心誠意取り組みたい。
(入社して十二年か……)
思わず誰にも聞かれないため息が転がった。総合職で男に交じって仕事をして会社に貢献している自分は決して嫌いじゃない。でも……。
──本当は私だって結婚したい。
一度でいい。とびきり甘いドラマみたいな恋愛を経験してみたい。そんなことを考えるのはアラフォー女にとっては馬鹿げた妄想なのだろう。現実は甘くないし、どちらかと言えば苦い事ばっかりだ。それでもこのまま仕事に生きて一生を終えると決めるのもまだ早い気がして、どこかで勝手に目に見えない恋に向かって手を伸ばしそうになる。手を伸ばさなければ恋なんて普通に仕事をしていても、降っても来なければ沸いても来ないのだから。
「あぁ……何考えてんのよ!駄目っ、煩悩を捨て去るのよ!梅子!」
私は湯のみに手をかけると緑茶を一気に飲み干した。
(私には暴れすぎ将軍様が待っているんだからっ)
一瞬頭に浮かんだレンアイの二文字を緑茶と共に飲み込むと、私は殿村がおいていった図面を早速広げた。