世界くんの想うツボ〜年下ドS御曹司との甘い恋の攻防戦〜
タクシーに乗り込んでからも、殿村は私の掌をずっと握っていてくれた。

多分気づいていたんだと思う。
掌を離されればまた震えてしまうことを。

自宅マンションが見えてきて私はそっと殿村の掌を離した。

「あ、殿村……ここで大丈夫だから」

「いや、今日だけは玄関まで送る」

「え、でも悪いわよ、ここから家まですぐだし……」

「はい、梅子降りて」

殿村はさっとタクシー運転手に支払いをすませるとまた私の手を引いた。殿村は本当に玄関まで送るつもりで、家に上がり込むような人ではない。そう分かっているのに、自宅に二人で手を繋いで帰る状況に緊張してしまう。

エレベーターのボタンを押せば殿村がふっと笑った。

「そんな緊張しなくても上がり込んだりしないよ。手を離したらまた震えるだろ、だから繋いでるだけだから」

「……どうしてわかるの?」

ぽつりと(こぼ)れた言葉に殿村の二重瞼が大きくなった。

「嫌なことを……思い出させたらと思って言わなかったが梅子、入社して三年目のとき、電車で痴漢にあったことあるだろ?」

「え?殿村に……話したっけ……」

そう言いながらも私は殿村の掌をぎゅっと握り締めた。

「あぁ、そうだよな。ごめん。もう退社したけど、俺たちの新入社員研修でお世話になった課長に、梅子が泣きながら話してたの偶然立ち聞きしてしまってさ……」

「あ、そうだったんだ……」

もう十年以上前の夏に、私は通勤途中、電車の中で痴漢にあったことがあった。あの時も怖かった。見知らぬ人に体を触れられた恐怖は、普段は忘れていても同じようなシチュエーションですぐに記憶が呼び寄せられる。
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