世界くんの想うツボ〜年下ドS御曹司との甘い恋の攻防戦〜
──『ねぇ、梅子さん今日何食べたい?タンドリーチキンとか?』

『ばか、仕事中にくっついてこないで』

──『あ、これにしよっかな、暴れすぎ将軍の松平健次郎も好きなサバの味噌煮?』

『え!嘘!食べたい、どれ見せて?!』

──『マジで現金ですね、仕事中でしょ、まぁ互い様ですけど』

そういって形の良い唇を二ッと引き上げる世界の笑顔を思い出す。料理本には私のために世界が貼り付けた付箋が沢山ついている。


「なんか一気に寂しく……なりましたね」

「う、ん……」


明菜がポツリとそういうと自分のデスクに戻っていった。

寂しいところじゃない。ぽっかりと心の真ん中に穴が開いてしまって何も考えられない。

私は再度、隣のデスクに視線を向ける。いつも隣にいた世界が隣に座っていないだけで、こんなに虚無感に襲われるとは思ってもみなかった。またすぐ会えると思っていたから。すぐに顔を見て話せば、また元のように楽しく過ごせるとどこかで安易に考えていたから。

(……またちゃんと会えるよね……話せるよね……?木曜になったら……)

私は卓上デスクのカレンダーを確認する。見れば木曜日の数字の横に小さく×がついている。

見積期限は金曜日の朝9時までだ。残業して作成できるのは木曜の夜が最後。私は頬を両手でパチンパチンと二回たたいた。

悩んでる暇なんてない。迷ってる暇も立ち止まってる暇もない。見積を完成させて心奈との勝負に勝たなけらばならない。そして由紀子に認めてもらい、世界にもちゃん会って伝えたい。


──好きだよって。


もうどうしようもなく世界が好きで私の中で大きな存在になっていることを。そして一緒に寄りそってあゆむ未来を願っていることも正直にありのままの言葉で伝えたい。いつも世界が私に真っすぐに伝えてくれたように。

(……いまは、やるだけやってみよう)

私は高ぶった気持ちを落ち着かせるために、大きく息を吸うと、卓上の父の形見の湯のみを手に持ち給湯室へと足を向けた。
< 186 / 291 >

この作品をシェア

pagetop