世界くんの想うツボ〜年下ドS御曹司との甘い恋の攻防戦〜
──俺はつい先ほど見てしまった映像が頭から離れない。
タクシーに揺られながら頭を窓辺にこつんと預けた。

(梅子さん……)

俺は定時には仕事は終えていたが、屋上での心奈と梅子のことが交互によぎって暫く秘書室で一人夜空を眺めていた。手元の時計が19時になるのを見てパソコンの電源を落とした俺は、梅子もまだ残業してると踏んで、見積課に会いに行った。

ブラインドの隙間からそっと覗けば梅子が泣いているのが見え、扉に手を掛けようとしたが、その時エレベーターが到着したことに気づいた俺は何故だか咄嗟に柱の陰に隠れてしまった。エレベーターから降りてきたのは殿村だった。



──俺は力いっぱい掌を握る。
窓越しに俺のふがいない顔が映ってやるせなくなる。

梅子があんな風に誰かを頼って縋って、自分の弱さをさらけ出す姿を俺は初めて目の当たりにして、単純にショックだった。理由なんて嫌になるくらい分かってる。梅子がどうして殿村に縋ったのか、自分から手を伸ばしたのか。あんなに泣いていたのか。

──全部全部俺のせいだ。

そもそも見積対決なんて馬鹿げたことを由紀恵が言い出す前に、心奈とのことをもっとちゃんと考えて向き合ってやるべきだった。花田社長にだっていくらでも個人的に会って話すことが出来たはずだ。誠実に素直に自分の気持ちを伝えて、心奈との婚約ができない旨を理解してもらえるよう努めてみるべきだった。

こんなふうに梅子から手を離されて後悔してしまう前に、やらなければならないことは沢山あったのに。

──何もかもおそい。何もかもがあとの祭りだ。

でも……それでも俺はどうしたってこの気持ちに嘘をついて生きていくことなんで出来ない。梅子を俺のせいで泣かせたのなら、その百倍俺が梅子を笑顔にしてやりたい。

『世界……この名に恥じないように世界を見渡せる器の大きな男になりなさい。そしていつか世界でたった一人の運命の人と出会って、愛し愛されて誰よりも幸せになりますように。世界で一番の幸せ者になれるよう願っているわ』

ふと遠い昔、自分の名前の由来を訊ねたときの香奈恵の言葉を思い出す。

(世界で一番愛する人を……世界で一番俺を愛してくれる人を俺が守ってやらなきゃどうすんだよっ)

俺はタクシーを降りると緩めていたネクタイを締めなおし、心奈の自宅マンションのインターホンを押した。
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