世界くんの想うツボ〜年下ドS御曹司との甘い恋の攻防戦〜
「……やめてっ!」

はっきりと目の前に世界の顔が浮かんで、反射的に私は両手で殿村の胸を強く押し返していた。そしてはだけたブラウスの合わせを握るとさっと体を起こし殿村から距離をとった。

「ごめ……なさ……」

声が震えていた。明らかに拒否と恐怖が混ざった声だった。

「あ、僕こそ……ごめん……」

殿村が深く頭を下げるのを見て、また涙が出そうになる。自分の寂しさを紛らわせるために、一体どれだけ殿村を傷つけたら気が済むんだろうか。

私は涙を飲み込むと大きな首をふった。

「殿村のせいじゃないの……殿村は何も悪くない……私……やっぱりこれ以上、殿村の優しさに甘えられない」

「……僕じゃダメか?僕は梅子が今誰を想ってても構わない。ただ、僕の隣にいてほしい。いつか……きっと振り向かせてみせるから」

「殿村……」

もしかしたら、いま殿村が差し出している掌を掴めば、いつしか殿村の事を愛して世界のことなど綺麗さっぱり忘れてしまう日が来るのがしれない。

でも……それは自分にも殿村にもいまある心を偽ることだ。こんな偽りの心をもつ私が殿村の真っ直ぐに向けられる愛情に応えられる日などきっと来ない。一緒にいればいる程、互いの心を痛めつけるだけだ。


「……ごめんなさい……本当にごめんね……」

私は殿村を深く傷つけると分かっててその言葉を口にした。もうこれ以上は殿村を傷つけたくない。もうこれ以上、自分自身にも幻滅したくない。

「私にとって……世界くんが最後の恋だったの……だからこの先も殿村の想いには応えられない。ずっと……この想いと一緒にきっと一生、心の中から世界くんは消えてなくなったりしないから……ごめんなさい」

深く頭を下げた私の髪に殿村の掌が触れた。

「なら……最後までとことん向き合ってこいよ。どうせ一生好きなんだろ?何度でもぶつかって何度でもやり直せばいい……人生一度きりだろ、って僕にも言い聞かせてるんだけどな」

そう言って殿村は優しく微笑むと胸元を握りしめている私の掌を解いて、はだけたブラウスのボタンを1番上まで留め直した。

「……行ってこいよ。またいつでも慰めてやるから……これからも同期としてな」

肩をすくめながらいつもと変わらず、余裕たっぷりに緩やかに笑う殿村にやっぱり涙が転がった。
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