世界くんの想うツボ〜年下ドS御曹司との甘い恋の攻防戦〜
私は出勤してきて直ぐにトイレに駆け込むと、鏡で念入りに首元をチェックする。
「まずいわ……これは何案件かしら……」
私の左の耳たぶに一つと、右側の首筋には誰かさんの噛み痕が赤くしっかりとついている。私は意地悪な顔をしたワンコを思い出しながら、首元の部分にだけ絆創膏を張り付けた。
(もう……ばかワンコ……)
翌日の日曜日にはすっかり元気になった世界は病み上がりにも関わらず私をベッドに二回も押し倒していた。
(噛むなら噛むで……もう少し見えないとこ噛めないのかしら……)
その噛み痕は、うれしいような恥ずかしいようなこの年になるとどうしたらいいのか分からないのが実情だが、世界の素直な愛情表現はやっぱり嫌じゃない。
「ふぅ……耳たぶは……髪の毛を耳に掛けなきゃわかんないわよね……」
私はしっかりと長い髪で耳たぶを隠すとトイレを後にする。トイレをでて見積課の方へ角を曲がれば、真向かいから長身の男が歩いてくるのが見えて心臓がドキッとした。
(ええっと……どんな顔して……)
「おはよう」
「殿村、おは、よ……」
いつもと変わらないトーンと口調に、私もなんとか挨拶の言葉を口にする。頭のなかには勝手に殿村との自宅でのことが脳内再生されてきてしまう。
直ぐに殿村がクククッと笑った。
「どうした?顔赤いぞ。なにかあったかな?」
殿村が飄々とした態度で私を揶揄うようにのぞき込んでくる。
「ちょ……近……」
「……なるほどね」
「え?」
「いや、ちょっと渡したいものあって。ここ邪魔だからこっちきて」
殿村はあんなことがあったとは思えないほどに、いつもの殿村で同期の殿村だ。そして人気のない通路の脇へとついていけばすぐに書類の束を渡される。
「はい、これ」
「え?」