世界くんの想うツボ〜年下ドS御曹司との甘い恋の攻防戦〜
「マジ……かよ」

「えぇ、すごいわね。イタリアの老舗高級家具ブランドであるポルトルーナから三年契約でデザイナーとして家具製作チームに来てくれないか?っていう打診よ。先ほど向こうの担当の方とお電話でお話したけどあなたがTONTONの未来の跡継ぎ候補だと知って、良ければマーケティングの勉強もできるよう、あなたにとって最大限の素晴らしい席を用意するからぜひ前向きに検討してほしいのことだったわ、行くでしょ?」

「え?」

「あら、こんないい話いかない選択肢ある?」

俺は賞状を見つめながらもすぐに言葉が出てこない。

(イタリア……三年……)

由紀恵が煙草に火を点けると天井向けて煙を吐き出した。

「……なぁ、三年は向こうから帰ってこれないよな?」

「えぇ、帰ってこれないどころか通訳はつけるけどイタリア語の勉強もしなきゃだろうし、自分のことで手一杯になるでしょうね。そもそも中途半端な気持ちで行くのならお相手に失礼よ。分かってるでしょ?」

以前の俺だったらすぐに飛びつく話だ。この会社を今よりさらに大きくするためにも、新しい商品開発は必要不可欠だと思っている。イタリアでデザインをしながら海外マーケティングを学べるなんて恐らく一生に一度の機会だろう。

(でも……)

「あら?もっと嬉しそうにするかと思ったけど迷ってるの?……源課長を置いていくのがそんなに心配かしら?」

「うるせぇな。そんなんじゃねぇし」

俺は唇を噛み締めた。図星だ。ようやく梅子と結ばれて由紀恵にも認めてもらえて、俺たちは未来に向かって歩き始めたばかりなのに、梅子と離れてイタリアに行くなんて今すぐには到底決められない。

「ちなみに返事は一週間後、出発は二週間後よ、これチケット」

(二週間後……よりによって契約交際満了日かよ)

どう考えてもいま梅子と離れる選択肢はない。梅子を一人で日本に置いていくなんてそんなこと俺には到底できない。

「……少し考えさせて。チケットはボスに預けとく」

由紀恵が煙草の煙に混ぜてため息を吐きだした。

「預けとくって行く気あるの?……ほんと……あなたがそんなに執着するなんてね……あの源課長に……分からなくもないけれど……」

「え?なんだよそれ?」

「いえ、何でもないわ。いい返事期待してる」

俺は封筒を抱えて社長室の扉に手を掛けた。

「世界」

その声に俺は首だけ後ろに向けた。

「源課長は……源梅子さんはあなたが思っているよりもきっと……強い女性よ」

「それどうゆう意味?」

「さあ、それは自分で考えてちょうだい」

俺は由紀恵が短くなったタバコを灰皿に押し付けるのを見ながら扉を閉めた。
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