世界くんの想うツボ〜年下ドS御曹司との甘い恋の攻防戦〜
『梅ちゃん、毎回毎回行けないってことは恋人がいるってことよね?今度のお誕生日で35歳よね?いつになったら結婚するの?一度つれて帰ってらっしゃい』

私はそのメッセージを見ただけで頭痛がしてくる。

(あぁ、煩わしい……恋人なんていないわよ、もうほっといてよね)

適当に返事をするとスマホを小銭の入ったポケットに突っ込んだ。

チンッという古めかしい音と共にエントランスに到着すると、私は駅に向かってまっすぐに歩いて行く。ふと見れば、目の前に長身のスーツ姿の男が見えた。少しだけ長めの黒髪にピカピカの黒の革靴で、右手の腕時計も高級そうだ。

(あれ? あんな人、うちのマンションに住んでたっけ? )

私は少しだけ駆け足をして距離をとりながら歩いていく。

(ん……いい匂いだな……どこの柔軟剤だろ)

更に近づこうとして、慌てて歩行速度を緩める。見ず知らずの男の匂いに朝から反応するなんて、自分では気づいていなかったが欲求不満なのだろうか。なんだか如何わしいことをしているような気になって、私はぶんぶんと首を振った。

目の前の男は長い足でどんどん進んでいく。左手はポケットに突っ込んでいて指先は見えず、勿論顔も見えない。

(どうせ、左手の薬指に輪っかついてる売約済物件なんでしょうね)

私は、ふと我にかえると今日一番のため息を晴れ渡った青空に吐き出した。


──チャーラーチャラーララー♪チャーラーチャーララー

(わっ、やばっ! お母さんだ!)

ポケットに入れているスマホからお茶の間で大人気の時代劇『暴れすぎ将軍』のテーマ曲が流れてくる。すぐ近くの見知らぬ人達が数人振り返るのを見て私が慌ててポケットに手を突っ込んだ時、少し先をいく男が振り返った。

──えっ?

時も呼吸も止まるとはこのことだ。想像以上に整った顔で鼓動は苦しいほどに加速していく。一瞬で目を奪われるなんてことが現実に起こるなんて思ってもみなかった私は高鳴る鼓動の音を聞きながらも男から目が離せない。

(なんて綺麗な顔してるんだろ……おまけに若っ……)

男はどう見ても二十代でここから見てもお肌が艶々としている。端正な顔立ちというには全然言葉足らずで、先日お昼のワイドショーでやっていた国宝級イケメンという言葉がピッタリだと思う。

(いや、国宝級というより世界級だわ……)
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