世界くんの想うツボ〜年下ドS御曹司との甘い恋の攻防戦〜
世界が社長室に呼ばれてから、私はパソコンを打つ指先を止めると湯飲みを抱えて立ち上がった。

まだ世界に触れられた頬と手首が熱いと感じる私はどうかしている。
世界と私とでは、世間ではきっと弟とされる存在以上に年が離れているのに。

(ほんとどうかしてる……それに契約交際なのに)

私は見積課の扉を開けると突き当りを曲がって給湯室へと歩いていく。スカートの中のスマホが震えて覗けば、実家の母からだ。

『梅子ちゃん、今度いつ休み?話したいことがあるから用事がてら一度そっちにいくわ』

「一度そっちにって……また展覧会でもあるのかしら」

私の母は書道家をしており、地元で書道教室を運営しながら年に何回か個展を開くために東京へ来るのだ。結婚のことを言われるのが嫌で正月以外はなかなか帰らない私にしびれをきらしたのだろう。

「話したいことか……どうせ彼氏いるか?結婚は?でしょ……」

現状五年ぶりに彼氏と呼べる存在はできたはできたが、とても母には報告できない。それに三カ月の契約交際とはいえ、このまま三カ月満了まで世界くんのいうがままに交際を続けていても良いのだろうか。

もうすぐ私は三十五歳を迎える。誰かと付き合うのならば、自分の年を考えてもっと現実的な相手と付き合うべきなのは十分わかってる。若い世界の気まぐれの恋愛に付き合わされてる暇なんてない……それなのに……。

「……なんでこんなに気になるのよ……」

私はスマホに送られてきた世界からのLINEメッセージをひとつずつ浮かべて眺めていく。

──『今日は先に帰りましたが明日は飯作るんで一緒にたべませんか?』

──『栄養ドリンク、梅子さんの玄関扉のドアノブにかけときます』

──『ちょっとだけ寝る前電話しちゃだめですか?』

──『今週の週末、どっかいきませんか?』

気づけば自然と顔がほころんでいて、私はあたりを見渡すとあわてて口元を引き締めた。

(かわいいな……)

世界にはああ言ったが、世界から毎日届く何気ないLINEは嫌じゃないし、正直嬉しいと思う自分がいる。でも素直にそれを認めてしまえばとんでもなく自分が誤った方向へ進んでいってしまう気がして、いつも心にブレーキをかけてそっけない返事をしてしまう。
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